近未来ハイスクール コーディネーターの小林です。先日、町中でブロッケン現象が見える、福島県只見町に行って変人について話してきました。

初めて訪れる只見町の第一印象は、山の中でありながら開放的なこと。平地が多いため、空が広いのです。そして、木々の深い緑と芝生の鮮やかな黄緑が目に眩しい町でした。着いたとたん、おそらく体が浄化されました。

もともと依頼された講演テーマは「地域で仕事をする、起業をする人材を育てる、サステナブルな教育」。そして講演タイトルは「変人コレクターが語る多様すぎるキャリアの人々」。元のテーマに果たして落とし込めるのかという一抹の不安を抱えながら現地入りしました。

只見町は美しい山に囲まれた町です。登山家が集まり、住民にとっても山は生活の一部です。当日は、天候が不安定で山開きのイベントをキャンセルした人の参加もあり、予定していた人数を10人も上回る35人が集まりました。

只見町の住民は4000人。毎年100人ずつ人口が減っています。危機感を抱いた町が進める子育て支援策のひとつが、招かれたイベントでした。小学1年生から小学3年生の子供が体力測定をします。それと並行して30代、40代の保護者の方がセミナーを受けるという企画でした。

新聞記事かお笑いか

変人という言葉は、尊敬の気持ちをこめて使っています。

講演では、自ら生み出す人を育てるヒントになればと思い、他人と違うことをする人、会社に勤めていても組織に依存せず、自分の足で立っている人などを数名紹介しました。

ここではある新聞記者を紹介します。「お笑い芸人」になろうと思い立ったことがある記者です。

なぜ「お笑い」か。

ある時、その人は「新聞記事だと限られた人にしか情報は届けられないのではないか」と疑問を持ちます。そこでお笑いグランプリの予選を受けにいきます。お笑いを通じて難しい政治や経済の話をしたほうが、より多くの人に伝わると考えたからです。

予選は通過しなかったのですが、芸人が数多く所属する事務所から声がかかります。上司にその会社へ転職したいと伝えたところ、「新聞社にいても、やりたいことができるはずだ」とひきとめられます。記者は「そうかもしれない」と新聞社にとどまります。

その後、「わかりやすく伝える」を別の形で実現します。政治をかみくだいて説明する「コミックエッセイ」を出版したのです。話もおもしろいその記者は、本がきっかけとなりセミナーやイベントで数多くの講演もしています。

自分の「変」は価値

3月から私がスタートした「近未来ハイスクール」では、変人と高校生をつなげます。業種はバラバラ、学歴もさまざまな大人たちです。そして異なる学校の高校生が参加します。

変人と話をした高校生は目を輝かせます。

「考えたこともない生き方に出会うことができ、楽しかった 」
「他人を受け入れるとその分価値観が広がるんだと思った」
「学校で学んでいることが役立つか疑問だったが、役に立つことがわかった」
「10年後、自分が変人として話をしたい! 」

なぜ変人が高校生を魅了するのか。

近未来ハイスクールに登場する変人は、社会に貢献できる自分の役割を見極め、行動をおこします。充実した時間を過ごし、学生に負けないくらい目を輝かせているのです。変人の働き方は様々です。一つの組織にずっと所属している人もいれば、転職する人、起業する人、複数の仕事を持っている人もいます。

近未来ハイスク  ールに参加する生徒は、進学校の子ほど「変」でもかまわないことに「ホッ」とする印象をうけます。周囲の期待に応えてきた分、自分が情熱を注ぐものが他と同じでないと不安を感じるのです。「古典が好きなのだけど、アイドルが好きな友人たちには話せない」。

多様性を受け入れるというのは、多様な他人を受け入れるだけなく、自分と人との違いを自分の大切な個性=価値であると受け入れることでもあるのです。

会に参加したある高校生の感想は、その場にいた大人たちをドキッとさせました。
「死んだ顔をしてスマホをみている大人とは違う、素敵な笑顔の大人に会えた」

身近にも変人がいる

心志塾について熱く語る齋藤教育長

只見町へ行ったら、私が講演をしなくてもいいかな、というほど素敵な変人に出会いました。

齋藤修一教育長です。

只見町を教育の町にすべく、次々と興味深い企画を実現しています。2017年2月からスタートした高校生の学びの場「心志塾(しんしじゅく)」は、全国から講師を公募しました。東京や名古屋などから20代の若手3名が、只見町に移住して高校生に勉強を教えています。

海洋学習にも力を入れています。東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センターと連携して小学生が海について学びます。山の中の町なのに、なぜ海洋学習か。海水は山から川を通じて流れてきたものです。水源である森の住民としての責任を理解する機会なのです。

一番驚いたのは、齋藤氏が2016年に設立された焼酎の蒸留所の仕掛け人だったことです。2017年に発売を開始した新ブランド米焼酎「ねっか」は、地元の名産品のひとつである米を活用し、なおかつ既存の日本酒の酒蔵とバッティングしない焼酎という分野で雇用を生み出します。教育長こそ町のイノベーターです。

米焼酎「ねっか」  (撮影場所:BARアイラ島 銀座)

私の周りには、出身が地方・都会にかかわらず、将来的に田舎に住みたいと話している人が数人います。2拠点で活動する人もいます。知り合いの編集者は、鎌倉で出版関係の仕事をして、生まれ育った町である静岡県下田市で月10日間だけカフェを開いています。

ネット環境も整い、専門性のある仕事さえあれば、場所にとらわれない働き方ができるようになってきました。そして子供達が将来働いて稼ぐためには、教育は欠かせないものなのです。

地方に行きたいけれども、子供の教育に不安を感じるという人の話も聞きます。素敵な教育長がいて、自然がたっぷりで空気の美味しい只見町は、若い子育て世代には穴場のエリアかもしれません。

変人でも良い、しかし…

講演終了後のアンケートをみると、子供の個性を伸ばしていきたいとは思っているけれども、集団生活になじんでもらうために枠組みにはめようとし、つい怒ってしまう、と葛藤している保護者のコメントが多くありました。

一方で、今回の話が「子供の味方であり、よき理解者でありたい」「自分の母親に、子育てについてを改めて相談しよう思った」と、子供や家族との関係を振り返るきっかけになった様子もうかがえます。

日本では只見町でしか見ることができない「ブロッケン現象」のように、他にはないエッジがたった人材育成の一端を担えたのであれば嬉しいなと、思います。

亀岡橋からみた伊南川

「自分たち三人兄弟を育ててくれた母は、本当にうまく育ててくれたと感心しています。母からいろいろなアドバイスを少しずつもらおうと思います。我が家の三姉妹の性格を理解して、家族みんな仲良くやっていこうと考えています」42歳母

「どんな面がどう役立つのか分からないものだと思いました。社会の中で大事なこと(ルール)を教えることも大切だけれど、親は理解してくれている味方でいてくれるとの思いを我が子がもてるように関わっていきたいです」37歳母

「あー、別に周りと同じじゃなくてもいいんだな、と安心しました(笑)。ついつい子供を枠の中に収めてしまう自分がいます。『お母さんはいつも怒ってるね』と言われることがよくあります。講話を聞いて、少しのびのび過ごそうと思いました」38歳母

「固定した考え方をしてしまいがちですが、個性を大切にして個性を伸ばした子育てをしていきたいと思いました。子供だけでなく、自分も人生の半分は過ぎましたが、これからの生き方を考えると楽しみが増えたような気持ちになりました」40代母

赤いトレーラーハウスは、町で初のカフェ「ママカフェ」

「いろいろな変人の話が聞けて楽しかったです。今回の変人のみなさんがいろいろな経験を経て今の仕事についているのを知って、我が子もこれからいろいろな経験をしてじぶんの夢をみつけてほしいと思います」31歳母

「人と人との出会い、そこから広がる生き方を子供達に見つけてほしいと思います」44歳母

「変人は私も尊敬します。子供にもそうなってもらいたいと思いますが、変人になるまでの過程を見守ってあげられるか不安になることがあります。とがった行動は理解されにくいと思いますので……ただし多くの(変人の)事例を知ることで、この考え方に間違いはないと安心しました」33歳父

「自分の子供が変わっていて悩むことが多いのですが、楽しめる場を増やしたり、つくったり、ほめたりすることを意識していこうと思いました」46歳母

「いろいろな変人の方に、私はもちろん、子供と一緒に会いたいと思いました。子供達の可能性を考えていきたいと思います」44歳母

「話を伺って心がほっこりしました」40代母

「変人でもよい。しかし、テキドニw 」37歳父

(opnlab 小林利惠子)

ママカフェの前にあるサンドコートとサッカー場

【参考情報】
心志塾
http://www.tadami.gr.jp/sanson/2017/02/001738.html
只見小学校で海洋教育
http://www.tadami.gr.jp/publicity/File/2017/02/13/561Page/Page12-13.pdf
米焼酎「ねっか」
http://nekka.jp/

【近未来ハイスクール 2017年7月以降の予定】

「教えて!高校生とヤマハがもっと仲良くなる方法」近未来ハイスクール アイデアソン(7/29開催)

近未来ハイスクール ダイアログ「正しい仕事の選び方」(8/11開催)